はじめて学ぶ潰瘍性大腸炎

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潰瘍性大腸炎とは?

潰瘍性大腸炎とは?

大腸の粘膜に炎症が起きて、下痢腹痛が起こる病気です。
潰瘍性大腸炎では、大腸の粘膜に炎症が起き、粘膜がはがれたり(潰瘍)ただれたり(びらん)しています。このため、お腹が痛くなったり、頻繁に下痢をしたり、ときには粘膜から出血をして血便が見られます。粘膜の炎症は、通常、外敵から身体を防御するためにはたらく免疫系が、なんらかの異常により自分自身の腸管粘膜を攻撃しているために起きていると考えられていますが、はっきりとした原因はわかっていません。
潰瘍性大腸炎の多くは、大腸に炎症があって自覚症状のある「活動期」と大腸の炎症が治まって症状がなくなる「寛解期」を繰り返します。寛解期から再び活動期に移行することを「再燃」といいます。

潰瘍性大腸炎の種類

潰瘍やびらんができている範囲で直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型などに分類されます。
潰瘍性大腸炎の炎症の範囲(病変範囲)によって、直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型、およびごくまれに右側または区域性大腸炎に分類されます。炎症は多くの場合、肛門側(直腸)から始まり、徐々に上に広がっていくと考えられています。

患者数は年々増加しています

潰瘍性大腸炎は、厚生労働省によって「特定疾患(難病)」に指定されています。認定された患者さんに交付される「特定疾患医療受給者証」の数は年々増加しています。また、治療の結果、症状が改善し「軽快者」と認定された患者さんに交付される「登録者証」の数も年々増加しています。

引用元:潰瘍性大腸炎(指定難病97) (難病情報センター)

潰瘍性大腸炎の合併症

大腸で起こる合併症

腸管に起こりうる合併症は、大出血、中毒性巨大結腸症、穿孔、癌、狭窄、炎症性ポリポーシスなどです。腸管の合併症で内科的な治療だけでコントロールできない場合には、手術が必要になる場合があります。

大腸以外の合併症

潰瘍性大腸炎では、大腸以外の離れたところでも全身的に合併症が起こることがあります。主なものは、眼(虹彩炎・結膜炎)、皮膚(口内炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症)、肝・胆道系(脂肪肝、胆石、膵炎)、骨格系(関節炎)などです。

虹彩炎

眼の虹彩と呼ばれる部分に起きる炎症のことです。症状としては、眼が充血し、光がまぶしかったり、痛みを感じたりします。多くは腸の状態が悪化した時期にみられますが、緩解期で生じる場合もあります。

関節炎

関節炎は、炎症性腸疾患の患者さんによく見られるもので、膝や足首などの関節に炎症が起きて、腫れたり赤くなったりし、押すと痛みを感じます。しかし、合併症としては重いものなのではなく、腸の炎症を治療することで、関節痛も軽減・消失します。

口内炎

歯肉や舌に痛みを伴って生じる浅い潰瘍性の病変です。炎症性疾患では高頻度に出現します。

結節性紅斑

足首やすねで多くみられる赤い腫れのことで、痛みを伴います。これが出現するのは腸の状態が悪化したときであり、腸の病変が改善されると完全に消失します。

壊疽性膿皮症

壊疽性膿皮症

主に足に見られる重い皮膚病変です。放置しておくと難治性で深い潰瘍となり、皮膚移植が必要になることもあります。

潰瘍性大腸炎の検査

潰瘍性大腸炎では、病状をきちんと把握するために便検査、血液検査、画像検査を行います。

診察前

潰瘍性大腸炎と診断されて、次に受診するまでに、自分の体調がどのように変化したかを医師に伝えるのはとても大切なことです。その指標として、①1日の便の回数、②便の状態、③血液や粘液が混ざっているか、④腹痛の有無など、自分で気づいたことは記録し、診断の際に伝えられるように準備しましょう。

便潜血検査

見た目に正常な便であっても、少量の血液が混ざっていることがあるため、便に含まれる血液を調べるために行います。

血液検査

血液検査では、主に血球の数(血算)と炎症の指標を確認します。検査値の変化は、病気の経過を見るのにとても重要です。

画像検査

画像検査

画像検査は、大腸の状態をより詳しく見るために行われます。炎症の範囲や粘膜の潰瘍やびらんの状態を観察し、その後の治療法を決める重要な検査です。画像検査には、肛門から内視鏡カメラを挿入して大腸内を観察する大腸内視鏡検査と、肛門からバリウムを注入してレントゲン写真を撮る注腸X線検査がありますが、近年は大腸内視鏡検査が主に行われています。

治療について

薬物治療の基本は5-アミノサリチル酸

薬物治療の基本は5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤です。

5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤は、軽症から中等症に用いられる潰瘍性大腸炎の基本の治療薬です。活動期の炎症を抑えるために使われるだけでなく、寛解期の維持にも用いられます。
経口剤(飲み薬)と局所製剤(肛門から直接挿入する薬)があり、炎症の範囲に応じてどちらか、または両方を使います。

より強い炎症にはステロイド製剤

より強い炎症にはステロイド製剤を追加します。

ステロイド(プレドニゾロンなど)は、炎症を抑える薬として非常に有効です。ただし、長期に大量に使用すると副作用が問題になるため、医師は必要な期間、必要な量だけを使うよう慎重に処方を考えます。
経口剤、局所製剤、注射剤の3種類があり、いずれも活動期に用いられます。寛解を維持する効果はないと考えられています。

その他のお薬について

その他、免疫調節剤、抗体製剤を用いることがあります。

ステロイドによる治療効果がみられない場合(ステロイド抵抗剤)や、ステロイドでいったん炎症が治まっても、ステロイドを減量・中止することで再燃してしまう場合(ステロイド依存例)には免疫調整剤を使用することがあります。
さらに、これらの薬物療法でも症状が改善しない場合には抗体製剤を使用することがあります。

薬物療法以外の治療法

血球成分除去療法(LCAP、GCAP)

大腸粘膜の炎症には、白血球などの炎症を引き起こす細胞が関与していると考えられています。白血球除去療法は、血液を片方の腕の静脈からいったん取り出して、ろ過することにより、特定の血液成分(主に血球成分)を除去し、その後、もう一方の腕から血液を体内に戻す治療法です。
主に白血球全体を除去する白血球除去療法(LCAP)と白血球のなかで特に顆粒球と呼ばれるものを除去する顆粒球除去療法(GCAP)の2種類があります。

手術療法

薬物治療などの内科的治療で効果が認められない場合には、手術によって大腸を切除することがあります。大腸をとってしまう、と聞いて不安に感じる方も多いと思いますが、潰瘍性大腸炎によって様々に生活が制限されている状況から開放される、というメリットがあります。
その他、大腸に穴があくなどの緊急の場合にも手術が行われます。

寛解期には、再燃を防ぐために薬をきちんとのむことが大切です。

寛解期には、再燃を防ぐために薬をきちんとのむことが大切です。

潰瘍性大腸炎の多くは、活動期と寛解期を繰り返す経過をたどることから、寛解したあとも寛解状態を長く維持できるよう、薬を継続してのむことが必要です。ある2年間の調査研究では、寛解を維持できた人の割合が、薬(5-ASA)をきちんとのんで絵いた患者さんで約9割だったのに対し、のみ忘れが多かった患者さんでは約4割にとどまりました。
つまり、のみ忘れが多かった患者さんのうち約6割が2年間のうちに再燃してしまったのです。症状がなくなると、つい薬のことを忘れがちですが、寛解状態を維持するためにも薬はきちんと服用しましょう。

潰瘍性大腸炎と大腸がん

潰瘍性大腸炎を発症してから10年以上経過している患者さんは、同じ年齢の一般の人たちに比べて大腸がんになりやすい傾向にあり、特に病変範囲の広い人でもその率も高くなることが知られています。一方、潰瘍性大腸炎の患者さんでも薬(5-ASA製剤)をのんでいた人は、のんでいなかった人に比べてがんの発生率が低かったことが報告されています。
これらの傾向から、潰瘍性大腸炎の患者さんには5-ASA製剤をきちんとのむこと、大腸がんの検査を定期的に受けることが勧められています。

寛解期の食生活

寛解期にはバランスのとれた食事を適量摂るように心掛けましょう。脂っこいものや刺激のある香辛料などはお腹に負担がかかり、あまりお勧めできませんが、それらのものを食べても、次の食事はさっぱりしたものを少量にするなど、2~3日の食事の中で調整するくらいの柔軟な対応がよいでしょう。
人によって体に合う食品とそうでない食品がありますので、状態のよいときにメニューを試しながら、自分にとっての”合う・合わない”を把握しておくことが大切です。

活動期の食生活

活動期には、食事が病状や全身の状態に大きな影響を与えるため、医師や栄養士などの指導に従い、食事に注意することが特に重要になります。活動期では、腸管からの栄養の吸収が下がり、体力を消耗しがちです。
また、下痢で水分や電解質も失いやすいことから、おかゆや麺類などエネルギー、水分、塩分を補給できる食事が勧められます。たんぱく質としては、卵、大豆食品、魚類が勧められます。反対に、腸に負担をかけ、下痢や腹痛を悪化させる高脂肪食や食物線維、刺激の強い香辛料、アルコール類、炭酸飲料を控えなくてはなりません。

消化しやすい食品
  • おかゆ、麺類
  • 卵、大豆食品、魚類
腸に負担がかかる食品
  • 高脂肪食(ロース肉、バラ肉、揚げ物など)
  • 食物繊維(線維の多い野菜、豆類、きのこ類、海藻類など)
  • 香辛料
  • アルコール類、炭酸飲料

潰瘍性大腸炎と日常生活での注意点

潰瘍性大腸炎と妊娠・出産

女性の場合、潰瘍性大腸炎だからといって不妊率が上がるということはありません。ただし、活動期に妊娠した場合に流産や早産などの危険性が若干高くなるという報告があります。また、まれにですが活動期の妊娠により潰瘍性大腸炎の症状が悪くなることもあります。妊娠を希望する場合には寛解期に妊娠されることが望ましいでしょう。
妊娠中、医師が薬を必要とした場合に服用可能な薬としては、メサラジンやプレドゾロン、インフリキシマブなどが挙げられます。逆にアザチオプリンなどの免疫調節剤は胎児に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠を希望する場合には主治医の先生によく相談しましょう。
男性の場合も、服用薬によっては注意が必要です。サラゾスルファピリジンは、精子の数や運動機能を低下させるため、男性不妊の原因になります。しかし、この影響は服用を中止すれば2ヶ月程度で戻ります。
いずれにしても、女性も男性も、主治医の先生に赤ちゃんを希望していることを伝え、潰瘍性大腸炎の管理や治療薬についてよく相談しましょう。

潰瘍性大腸炎と運動・スポーツ

寛解期には特に運動を制限する必要はなく、、疲れすぎない程度に運動することは気分転換にもなります。ただ、水分を失いやすい病気ですので、こまめに水分補給を心掛けましょう。
活動期の場合は、あまり運動はお勧めしません。特にステロイド剤を長期にのんでいると骨折の危険があるため、運動は控えた方がよいでしょう。

潰瘍性大腸炎とお酒・飲酒

アルコールは腸の粘膜を傷つけ、腸の内容物の悪いものを体内に入りやすくしてしまいます。アルコールで潰瘍性大腸炎が悪化するという研究結果もあることから、活動期にはお酒を控えた方がよいでしょう。寛解期においては、少量であればよいでしょう。

潰瘍性大腸炎とタバコ・喫煙

潰瘍性大腸炎に限っていえば、喫煙者に潰瘍性大腸炎患者が少ないことから、喫煙は潰瘍性大腸炎によい影響を与えるのではないかという研究結果があります。しかし、喫煙は肺がんなどのがんの危険性を高め、呼吸の機能や動脈硬化にも悪影響を及ぼしますので、潰瘍性大腸炎の患者さんだからといって、喫煙はお勧めできません。

潰瘍性大腸炎と市販薬

以前は痛み止めや風邪薬に含まれる解熱鎮痛剤が潰瘍性大腸炎を悪化させると考えられていましたが、これまで行われてきた研究ではこれらの薬と病気の間に関連性は認められていません。
したがって、一般的に2~3日間であれば問題はないでしょう。ですが、風邪は再燃の要因になることがありますので、風邪の流行期はマスクをしたり、帰宅後はうがい、手洗いをするなど予防につとめ、なるべく風邪薬のお世話にはならない方がよいでしょう。また、インフルエンザの予防接種については、ステロイド剤や免疫調節剤をのんでいなければ受けることができます。

その他

風邪、多忙や残業による肉体的過労、睡眠不足などの身体的なストレス、生活環境の変化などの心理的なストレスは、潰瘍性大腸炎の再燃や悪化の引き金になることがあります。
規則正しい生活を心掛けるとともに、悩み事のような心理的なストレスも溜め込まないよう、日頃から周囲に相談するなどしましょう。

知っておきたい社会支援制度

潰瘍性大腸炎は、国の指定した「特定疾患治療研究事業」の対象疾患になっています。所定の手続きをして「特定疾患医療受給者証」が交付されると、医療費の助成を受けることができます。また、特定疾患医療受給者証を交付された患者さんを対象とした市区町村からの見舞金、会社からの傷病手当金のほか、手術により大腸を切除し、永久的な人工肛門になった方には、身体障害者手帳や障害年金の制度もあります。
その時々の病状やお住まいの地域によって受けられるサービスや申請書類などが異なりますので、主治医の先生や保健所、地域の福祉課など、関係窓口にご相談下さい。

制度 対象 保障 窓口・問合せ先
特定疾患治療研究事業 認定基準を満たした方 保険診療の自己負担額の一部を国と都道府県が助成 各地域の保健所
市区町村からの見舞金 特定疾患医療受給者証を持っている方 月額数千円(自治体により異なる) 居住地の市役所の障害福祉課
傷病手当金 会社に勤務していて病気で就労が困難になった方 休暇分の給与の6割程度(最長で1年6ヶ月) 会社の担当窓口
身体障害者手帳 永久的に人工肛門を造設した方、あるいは治癒困難な腸ろうがある方 人工肛門装具購入費の助成、交通運賃の割引、税金の減免、美術館・博物館などの入場料の割引 福祉事務所、居住地の市役所の障害福祉課など
障害年金制度 発病時に国民年金、共済年金または厚生年金に加入していて、人工肛門を造設した方 2ヶ月に1度(月額6万円程度)の障害年金の支給 国民年金:役所
共済年金、厚生年金:社会保険事務所

潰瘍性大腸炎と診断されたら、『特定疾患』の申請をしましょう。

特定疾患治療研究事業は、特定疾患の研究を推進するために患者の方の治療にかかる医療費の自己負担分の一部または全額を公費で補助する制度です。認定されて「特定疾患医療受給者証」が交付されると、所得に応じて決められた自己負担限度額を上回った医療費は公費で助成されるようになります(重症認定の場合は全額助成)。申請したから認定結果が届くまで1~2ヶ月かかりますが、医療費助成の開始は申請手続きをした日からになりますので、希望される方は診断されたら最寄りの保健所に問合せ、すぐに手続きをしましょう。
※現在は潰瘍性大腸炎の軽症者の患者さんは特定疾患認定対象外です。

(1)必要なもの

  1. 特定疾患医療受給者証交付申請書(申請者と主治医の先生が記入)
  2. 診断書、臨床調査個人票(主治医の先生に記入してもらう)
  3. 特定疾患医療意見書の研究理由についての同意書
  4. 住民票
  5. 健康保険証
  6. 生計中心者の所得税額証明書
  7. 印鑑

※必要なものは自治体により異なることがあるので最寄の保健所にご確認ください。
※「生計中心者」とは「潰瘍性大腸炎患者さんの生計を主として維持している方」が該当します。

(2)認定の種類

種類 発行される認定証 医療費の助成
認定 特定疾患医療受給者証 収入に応じた額
軽快者認定 特定疾患登録証 なし
重症認定 重症認定証 全額

※軽快者認定では、医療費は一般の人を同様に3割負担になりますが、症状が悪化して再び治療が必要になった場合には、医師が判断した日にさかのぼって治療費を助成してもらうことができます。

(3)有効期間

原則として申請書の受理日から最初にくる9月30日までが有効期間になっています。以後、毎年の更新が必要です。

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